今学期取った授業の1つがSustainability Governanceに関するものだった。
持続可能な社会の実現にあたってガバナンスの形態がどのように変化しなければ
ならないか、ということを考える授業だ。授業で扱った題材全てに共通する考え方が
Integrated Resource Management(IRM)というもの。IRMは日本語では『統合的資源管理』
とか言うらしい。教えるのはBC州のMinistry of Sustainable Resource Management
の元Deputy Minister(次官)だったJon O'Riordan教授。
現在の経済モデルは、経済というシステムに「資源というInput」を投入し、それが加工、消費
されて「廃棄物というOutput」として出てくる、という直線的な考え方に基づいている。
それに対してIRMは『本来自然界には廃棄物というものは存在しない』という生態学の
原則に基づいた資源管理の考え方だ。日本でよく言う『循環型社会』の基本原則と言ってよいと思う。
この授業の最後の課題が、実在するインフラ設備や資源利用法をIRMに基づいた
ものに変更するならどういったものが考えられるかコンサルタントになったつもりで議会に
対して仮想の提案書(Policy Recommendation)を書く、というケーススタディだった。
うちのチーム(4人)は現在実際に検討されているバンクーバー広域地域の廃水処理施設
のアップグレード・建て替えに関して書くことにした。今年の5月にカナダ連邦政府環境省
の定めた新環境規制により、国内全ての廃水処理施設に対してSecondary Treatment(二次処理)
が義務付けられた。これを受けて、バンクーバー広域政府は既存の古い廃水処理施設を
取り壊し、新しい施設を建てることを検討している。僕らのチームは、新施設の1つの方向性
として、IRMに基づいた全く新しいシステムにすることを提案した。
例えば、今まではそのまま処理して海に流していた廃水を家庭や産業・工業用の非飲用水
(冷却水、感慨水、トイレを流す水等)として再利用したり、下水が持っている熱を
ヒートポンプを使って回収して暖房に使う事が可能だ。また、廃水処理だけではなく
有機廃棄物(コンポストや庭の草木)の回収も同じ施設で行なうことにより
バイオガスを生成しそれを使って電力を作ったり、車を走らせることができる。
このように、現在『廃棄物』として扱われている物全てを資源に変える複合施設を
作り、インフラもそれに合うような物に作り変えるのはどうか、という提案だ。
(プレゼン用に作った図が以下:1が既存のシステム、2がIRMに基づいたシステム)
こういう取り組みはスウェーデンやドイツで既に多くの実例がある(Stockholm,Kristianstadなど)。
実際、技術的にこういう施設・インフラを作ることは決して難しいことではないらしい。
問題はこの授業の主題でもあるガバナンスをどうするか、ということだ。
現在の行政システムは上水の管理と下水の管理が別々だったり、固体廃棄物と液体廃棄物の
処理が別々だったりとかなり縦割り行政になっている。これをIRMのような統合的なものに
するためには現在の縦の繋がりから横の繋がりへ、大規模な組織改革が必要になる。
それに関してももちろん提案書の中に具体的にどういう連携が必要になるのかを盛り込んだ。
長く行政に関ってきた教授によれば、このガバナンスの部分を変えるだけで10~20年
という単位の時間がかかるだろう、という事だった。こういう自治体レベルのインフラ
に限らず、世界レベルでも持続可能な社会の実現を阻むのはハードの部分ではなく
必ずソフトの部分なんだ、とつい先日までメキシコで行なわれていたCOP16の報道を
見ても思った。
IRMの考え方自体はとても単純で当然のことをしているだけ、といえばそれだけ
の話なのだが、あらゆる資源管理をIRMというレンズで見ると見方が変わってくる。
昨日まで一緒にウィスラーに行っていたクラスメートの友人(女性)も、ホテルで夜
話していた時に「ちょっと汚くて、しかもnerdy(勉強オタクっぽい)な話なんだけど、
あの授業を取って以降、トイレに行く度に『あー、熱が無駄になった』って
思っちゃうんだよね!」と言っていた(笑)