2011/02/01

人生を楽しむ人達

今日はコーヒー1杯で5時間カフェに居座って奨学金応募の書類作成に時間を割いた。
American Planning Association(全米都市計画学会?協会?)の環境ディビジョンが
出している2500ドル(20万ちょっと)の奨学金で、修士論文を執筆中の修士2年生が対象のものだ。
こっちはこういう小口の奨学金が本当にたくさんあるので、努力さえすればタダで貰える
お金がゴロゴロと転がっている。学生に対する財政支援の充実度もこっちで院生をしていて
いいと思う多くの要因の1つだ。

夜は、去年行ってめちゃくちゃ楽しかったので今年も企画しているBC州内陸部Revelstoke
へのスキー旅行(→昨年の記事)作戦会議 兼 餃子作りパーティーに行って来た。
今年は日本からはるばる高校時代の親友が滑りにやって来る。去年は3人で行ったが、今年は
4人旅行で、日本から来る彼以外の2人は両方30歳前後の既婚女性。フランス人とカナダ人の
ハーフとアメリカ人。うちの学科でスキー狂の人達は何故か女性が多い。っていうか
そもそも学科の三分の二が女性なんですが・・・。

フランス系カナディアンのSさんは昨年も一緒にスキーに行ったし、普段から仲が良いので
お互い良く知っている。もう1人のアメリカ人Tさんは1年生で、まだ彼女のことはあまり
知らなかったので、スキー前の親睦会も兼ねての餃子パーティーだったのだ。
(昨年Revelstokeの宿で餃子を作って以来Sさんのお気に入り料理となったので)

彼女達と餃子を包みながらスキー計画の話を含めて色んな事を話した。

Tさんは今年の5月に挙式を予定していて、婚約者の同じくアメリカ人の彼とは
現在シアトルとの遠距離恋愛中。シアトルならまだ近いので中距離恋愛、と言っても
いいくらいだが、ついこの前までは彼がサンフランシスコにいたにも関らず、毎週末
会っていたというから驚いた。
(注:バンクーバーからサンフランシスコって、普通に北海道から九州くらいの距離あります。)
なんでそんなことが可能だったの?と聞くと、航空券代がほとんど彼の会社持ちだったから、
だそうだ。婚約者と会う為の費用を出してくれる、そんな良心的な会社があるのか!
と仰天したが、その他の彼らの人生の送り方を聞いていても、色々びっくり。
北米人の自由奔放な生き方はもう嫌と言うほど目の当たりにしているが毎度聞く度に
日本とのあまりの違いにびっくりする。率直に言って、(色々苦労もあるだろうが)彼らは
人生をほんとうに楽しんでいるなあ、と羨ましく思う。

Tさんは米国中西部の超ヒッピー名門大学を卒業後しばらく教授の手伝いの仕事をし、
すぐにエクアドルへ。現地のNGOでアマゾンの原住民の支援・教育プロジェクトに従事し、
その後はガラパゴス諸島の漁師達をダイビングコーチに育成するためのカリキュラム作りに従事。
(これは、ガラパゴス周辺の魚の乱獲を食い止めるためのプロジェクトだったらしい)
エクアドルとガラパゴスで3年過ごして次は何をしようか迷っていた矢先に、南米放浪中だった
今の婚約者とエクアドルのレストランで出会い、一瞬で恋に落ち、彼についてカリフォルニアへ。
1ヶ月ヨセミテ国立公園の中をキャンプして過ごし、その後サンフランシスコの靴屋で
働き、彼がコンサルの職を得たのを機にTさんはレイク・タホ(カリフォルニアのスキーメッカ)
に移り住み、2年間そこで働きつつスキー三昧の日々を送る。そろそろまた勉強でもすっか、
と大学院に出願をはじめ、去年からうちの学科に入学した、というわけだ。
卒業後は再び国際的な開発系の職に就くことを希望している。


30歳手前の彼女の今までの人生は日本ではいわゆる「フリーター」という分類をされるだろう。
世間からは「結婚もしないで色んな仕事で食い繋いでフラフラしやがって」という目で
見られることだろうと思う。しかしこっちではこういうライフスタイルを送る人は
極めて普通。各自がその時に興味のあることをとことん追求して、日本人から見れば
計画性のないフラフラした生活をしている人がとても多い。それでも日本とこっちで
決定的に違うのは、彼等彼女等は普通に「健康で文化的な最低限度の生活」を送っていて、
その気になれば大学院に入り直すなどしていわゆる「まともな仕事」につくことが可能だ。
というかそもそも、フリーターのような生活をしながらもその場その場でそれなりの
給料を受け取っているので最低賃金のアルバイトとは少し訳が違う。

一方今の日本に目をやると、卒業前の大学生の就職内定率が70%を切る超氷河期、と
連日ネットニュースの見出しは大騒ぎ。それと同時に「内向きな若者」(大人は
内向きではないのか、と聞きたくなる)や「優秀な留学生に職を取られる日本人学生」など
日本の若者に関する明るいニュースをほとんど聞かない。日本全体が閉塞感に
満ちているのは事実だと思う。

北米と日本はあまりに歴史的、文化的、社会的コンテクストが違いすぎるので単純な
比較は避けなければいけないが、この2つの国(カナダとアメリカは北米、という括りを
していいほどほぼ社会的コンテクストは同じ)の「若者像」を比較してみて日本に
決定的に足りないと思うのは

リスクをとることに対する許容度とそのインフラ、システム

だと思う。

システムと文化は卵と鶏のようなものでどちらが先か分からないが
(あ、ちなみに全然関係ないですが「鶏が先だ」という科学的結論に最近達したみたいですね 笑)
システム的な問題だと思われるものを挙げてみると

(1) 再チャレンジの場の少なさ(大人もスキルを磨ける教育的場)
(2) 人材流動性の低さ(転職市場のなさ)
(3) 「フリーター」と「ばりばりキャリア」の間の中間的な働き方の欠乏
(4) 大学卒業前に人生を選ばなければいけない(新卒一括採用システム)

どれも密接に関っているので項目として分解していいものかがそもそも怪しいが
特に(2)~(4)は日本の雇用形態に関るもので、今後やはり何かしらの形で変わって
いかなければいけないと思う。最近ようやく色々な形で変化が起きているが、
新卒一括採用システムの見直しはマストだと思う。卒業までに正規職員の職が見つから
なければ人生どん底。それを避けるために親に1年分の学費を工面してもらって就職浪人
をする。どれも日本にしか見られない異常なほどの新卒採用主義の弊害だと思う。

ただ、今起こっている採用時期の遅らせや卒後3年まで新卒とみなす、というような対策は
根本的な解決にはならないのではないか、と僕は個人的に思う。

留学する若者が減っているのも、就活生の大手安定志向もある意味システムに
よる当然の帰結のような気さえする。普通に考えればこれだけグローバル人材が
必要だとか、社内英語公用語化をするだとか言っていれば留学してこれらのスキルを
身に着けて帰ってきてやろう!という人が増えるべきじゃないか。しかもいよいよ
国債格下げを食らい、GDPでは中国に抜かれ、国際社会では無視され、という
トレンドも考慮に入れれば「このまま日本にいちゃまずい」と国外逃亡を考える人が
もっといてもおかしくない。自宅が火事ならばまずは逃げることを考えるのが人間心理
ではないか。それなのに現状を見ればその逆で、日本人は日本にしがみ付く。
そういう「リスク」を取ることのベネフィットと失敗した時のコストを比較すると
失敗した時のコストが大きすぎて踏み切れない。その原因はやはり上記で挙げたような
再チャレンジの場の無さや大学卒後にすぐ固定されてしまう雇用システムにあるのではないか。

誤解を招かないように言っておくと、僕は日本大好きです(笑)
日本人が日本にしがみつくのは単に日本ほど便利で居心地の良い国が他に見当たらない
からであるのも事実の1つだと思うし、僕が日本に帰って仕事をするのも、日本の良い点を
どんどん世界に発信し、世界の良い点をどんどん日本に持ち込むべきだと思っている
からで、その橋渡しになれればいいと思っているから。

ただ、客観的にこうして外国から日本を見ているとどうしてもこのままでは
ネガティブサイクルに陥るのではないかと不安に思う。


都市「計画」学部にいてもたまに疑問に思うのですが「計画」っていうのは
(当然ですが)現時点の持ち合わせの知識や知り得る範囲内のことしか考慮に入れる
ことができない。だから、計画当初に考えなかったようなことが起こった場合や
もっと良いプランを発見した場合はその都度修正ができるような柔軟性が組み込まれて
いることがかなり重要。実際の都市計画の書類などを見ていてもそういう但し書きは
至る所に見られる(rezoningなど)。

人生も基本的に一緒で、ある程度の計画は必要だけど、計画当初に知り得なかった
ような興味や関心に出くわすようなチャンスと、それを取るリスクは社会がある程度
許容するべきだし、人材の適材適所という観点からもむしろ歓迎されるべきだと思う。
仕事ってやってみないと分からないことばかりなので、驚くべきところに自分の興味や
適正がある場合なんてたくさんあるんじゃないかと思う。

そういうことを発見するための時間や旅、回り道をたくさんしてきたんだな、と
餃子を包むTさんの話を聞きながら思ったのでした。

5 件のコメント:

junji@tokyo さんのコメント...

いいよね、そういう暮らし!カナダとかアメリカとか暮らすと楽しいだろうな〜!

再チャレンジできない仕組み(村八分根性?)
究極な柔軟性にとぼしい採用システム(昔からの人事の無能。てか無能ならいらないのに、その部署)

日本のこういうところって保守的でかわりづらいよね〜人間は時とともにより洗練されていくのだから、先人の考えにとらわれずにかわればいいのに。

来春からは東京の真ん中のクッキーに期待してますよ!

QD さんのコメント...

貴兄が自らの出自来歴を語っているような感慨を抱きましたよ。

自分の責任でリスクを取って楽しむ。貴兄の両親はそのように生きようとし、その結果として貴兄を授かり、貴兄もまたそのように生きて欲しいと願って、貴兄の名を付けたのですからね。

しかし・・「遅らせ」って名詞形は、無いぜ。

ATY さんのコメント...

>誤解を招かないように言っておくと、僕は日本大好きです(笑)

この気持ち凄く分かります(笑)

たかゆき さんのコメント...

全面的に同意です。
僕も最近、同じような事をずっと考えていました。
外に出て日本を見るようになってから
余計、危機意識が高まったこの頃。
日本が好きだからこそ感じる危機感だよね!

(1) 再チャレンジの場の少なさ(大人もスキルを磨ける教育的場)

特に僕は、この辺りの危機意識が強くて
一時期、教育業界や文科省も就職先として考えてました。

似たような危機感を持っている人と
働く事ができるのは僕としては嬉しい限りです。
早く会ってお話したいです!!笑

yk さんのコメント...

>junjiさん

ヨーロッパは北米よりはやはり定住型
に近いんでしょうか?それでも日本より
は流動性が高いと想像しますが・・・

日本のシステムにはいいとこも
たくさんあると思いますが
(人的流動性が高まり、組織が
ドライになりすぎるとそれはそれで
弊害があると感じました)
直すべきところもたくさんあります
よね。徐々に変えていきましょう!

>QD

言われてみればそうだね。
安住しないように頑張りますわ。

「遅らせ」なんてないのは
分かってたんだが・・・遅延?
なんかそれも電車みたいだしなあ。
先延ばしか。

>atyさん

ありがとうございます(笑)

>たかゆきさん

確かに教育は変えれるところたくさん
ありますねー。僕は環境問題を考える
時にいつも「結局は政治的判断に
よって全て物事が決まってしまう」
ということに苛立ちを覚えるんですが
民主主義の成立条件って一般の人達
が正しい判断を出来ることにかかって
て、そのためには教育って本当に
大事。大人の教育も、子供の教育も
大事!
バンクーバー寄って下さいよ(笑)