2010/09/01

ポストGDPを考える時期

少し古い話題(といっても数週間前)ですが、中国のGDPが日本のGDPを
上回ったことがニュースに取り上げられた。

正直、人口が10倍以上の国に何故今まで抜かれてなかったのかが不思議な
くらいだったので驚きはしなかった。ただ、この事実に対して日本がどう
対応するか、というのは今後の国の行く末を左右する結構大事な点だと思う。

考えられるアプローチとしては:

(1)GDPという指標にこだわり、経済成長を推しすすめる方向性。

総額では今後更に成長を続ける中国に対して勝ち目は一切無いので、
恐らくper capitaの議論に持っていくのではないかと思う。1人当たりGDPでは
まだ日本は中国の約10倍の値だ。ただ、per capitaでも日本は概ね世界23-24位
くらいに留まっているので、誇れる数値とは言い難い。

ちなみにper capitaも純粋に頭割りにした平均値に過ぎないので、その国の
格差構造などは隠蔽され、国全体の豊かさ、という意味では正確な数値とは言い難い。
不平等の程度を表すジニ係数なども同時に見る必要がある。

(2)GDPという不完全な指標を見直す好期と捉える方向性。

昔からGDPは不完全な指標だと指摘され続けてきている。
例えばブータンなんかはGNH(Gross National Happiness:国民総幸福度)という
独自の指標を使って豊かさを測ろうとしていることは有名。
その他にも自然資本のストック、経済格差、社会保障、などを豊かさの指標に
組み込むことが提唱されている。エコロジカル・フットプリントもまさにこの
文脈の中に位置するもので、自然資本の量を計測することで豊かさの指標を
補おうとするものだ。
世界が「持続可能な発展」の方向に流れ始めている今、GDPに代わる
もっと包括的な指標を世界に先がけて採用することはちょうど中国にGDPを
抜かれた日本にとって採るべき戦略だと思う。

ちなみにGDPの不完全さについては日頃読ませて頂いているla dolce vitaさんの
ブログ(→世界級ライフスタイルのつくり方)にとても分かりやすい記事が載っている
(→「幸福度をGDP算出に」

この記事の中で特に印象的なのは、GDPを押し上げる要因と押し下げる要因の箇所。
以下に引用。

例えば、次のような現象はすべてGDPを押し上げる要因になります。

- 刑務所の囚人の数が多い(刑務所を維持・運営する支出が多い)
- 訴訟が多い(巨額の弁護士費用がかかる)
- 車社会である(ガソリン消費量が多い)
- 産油国である
- 肥満に起因する医療費が多い
- 公的医療がなく、民間の医療費・保険支出が多い
- etc....

こうやってあげると、すべてある国を指しているような気がしてきますが・・・(笑)

そして、次のような現象はGDPを押し下げる要因になります。

- 家・インテリアをDIYする人が多い(住宅・リフォーム支出が減る)
- 公教育が行き届いており、教育費支出が少ない
- 食料を自給自足する人が多い
- バカンスは友人同士で家を交換することが多い

確かに1人あたりGDPが高い = 豊かな社会、とは言いがたい。


現在はGDPの高い国=お金持ちの国=国際社会で権力のある国、という構図が
出来上がっているので、どうしてもGDPというのは気になる指標だ。
しかし、上記のように、台頭してくる人口の多い途上国に対して日本はGDPという
土俵では今後あまり勝てないことが予想される。それならば論点をずらして、
ポストGDP主義への舵取りをここで一気に取るべきなんじゃないだろうか。

その1つの可能性として、エコロジカル・フットプリントは環境、という面から
ある程度国際間で比較可能かつ包括的なものを提供しうると思う。
先日、WWFジャパンと僕のインターン先のGFNが共同で執筆した
エコロジカル・フットプリント・レポート」が発表された(→日経記事
ここにもGDP偏重主義から脱することを提案するセクションがある。

ちなみにこのレポートの和訳は僕が結構担当しました。
ので、ヒマな人は読んでみてください(笑)グラフィックも結構凝っていて
綺麗だと思います。

少しでも自分が貢献した仕事がこうやって世に発表されるのは嬉しいことです。

追記

ちなみに、Redefining ProgressというNPOも、その名の通りGDPに変わる
指標を提唱する有名な団体です。

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