2010/03/10

プライスシグナルは種の保全に繋がるか?

EUがクロマグロ禁輸支持という記事を見て、プライスシグナルと種の保全について考えた。

経済学は「稀少資源の効率的な配分」を考える学問。そのコアとなる考え方が供給曲線と
需要曲線によって市場価格が決まり、それにより消費水準がコントロールされる
(価格が上がれば消費が減る、価格が下がれば消費が増える)、ということ。
これによれば、資源の稀少度合いに応じて価格がそれを現してくれる(プライスシグナルを
発する)ので、放っておけば勝手にマーケットが調整し、政府の介入などいりません。
いわゆる「神の見えざる手」ってやつ(マラドーナじゃなくてアダム・スミスね)。

でもこれって全てにおいて、特に天然資源においても成り立つルールなのか?

以前エコロジカル経済学の講義で「価格が低くても高くても種の絶滅は起こる」という
ことをチラっと学んだ。面白かったので関連の論文を調べてみた。

Markets and Biodiversity loss: some case studies and policy considerations
ではまさにクロマグロ(Atlantic bluefin tuna)の例を引き合いに出している。

資源経済学ではある種の個体数の均衡点(X)はコスト(C)と市場価格(P)を
用いて X=C/P と表される。
つまりコストが市場価格を上回れば個体数は回復する、という単純な式だ。

多くの商品は稀少性が増してくるとextraction costが大きくなり、価格も
上がる。そうこうしてるうちに代替財が現れ、そちらに消費が移行する。
石油と再生可能エネルギーの構図と一緒だ。

しかしクロマグロの例ではコストは大きく上がってはいるものの、
市場価格がそれを更に上回る勢いで上昇しているので漁師の人は尚も
マグロ漁に出るインセンティブがある。式で言えばP↑のスピード>C↑のスピード
なのでX↓。

何故価格が上がっても需要は減らないのか。

まあ直観的にも分かることですが、クロマグロ、特にその中でも最高級の
オオトロのような商品はステータスとの結び付きが非常に強い。そういう商品
においては価格が上がるとむしろ需要も増える、ヴェブレン効果(Veblen Effect)
という現象が起きる。その背景にあるのは、ステータスを示すための
誇示的消費(conspicuous consumption)。ヴィトンのバッグを買う心理と全く一緒だ。

代替財が現れるとすれば、養殖マグロや他の種類のマグロなのだろうけど、
(クロマグロの養殖は確率が低いものの成功している)むしろ誇示的消費の世界では
パチモンではなくホンモノにこそ意味があるので全く関係ない気がする。特に魚は
養殖と天然ではステータスがまるで違う。養殖の存在がむしろ天然の価値を更に
引き上げる可能性すらある。

市場は万能じゃない、というのは多くの経済学者が認めている点ですが、
このクロマグロの例でも稀少性を現すはずのプライスシグナルが種の保全に
おいては役に立たない可能性を大いに示している。

そもそもこの記事は数日後に開かれるワシントン条約会議に関連して書かれた
ものですが、上記のような理由により国際条約のような形で守ることには賛成です。
クロマグロが食べられなくなることよりも、食物連鎖の上位(high trophic organisms)
にいるマグロのような生き物が消えることによる生態系への影響の方がよっぽど問題です。
別にクロマグロ食べなくても死なないし。

この辺は水産学部の知り合い連中の方がよっぽど詳しいと思いますが。

1つ思うのが、もしクロマグロがワシントン条約で絶滅危惧種扱いに入って国際取り引きが
禁止になったら(なると思いますが)、絶対ブラックマーケットが出来て更に値段が上がる
ことが想定される。EU圏内の取り引きは国際取引とみなさない、ということらしいけど
EU圏外への密輸の徹底防止が伴わなければ逆効果になることすら考えられる。
ちなみにクロマグロの消費は日本が8割も占めてるそうです。
そんな巨大なマーケットが文句を言わないはずがありません。
築地のおっちゃん達がシュプレヒコール!してる写真を見ました。


先日のSeaChoiceの話といい、なんで都市計画学科にいるのにこんな話ばっかするのかって?

日本語では都市計画と言ってしまってますが、Planningってこちらでは
もっともっと広い意味で、僕の学科内専攻も一応Ecological&Natural Resource Planning
という名称です。なので土地利用計画や水関連に絡めて資源管理的な勉強も結構
するのです。なんだかんだ自分の環境への興味は鳥から派生してるので、最初は
都市環境の勉強が面白そうだなあ、と思ってやってきましたがどうも生物多様性、
天然資源系の話にやはり一番興味があるのではないかと思い始めた今日この頃。
日々興味関心がフラフラしてます・・・

これから「都市計画勉強してます」って言うのやめようかな~。
ちょっと言葉の意味が狭すぎる気がします。

3 件のコメント:

kura さんのコメント...

いまさらだけど、勝手にお呼ばれした気がするのでコメントします(^_^;)

実は俺はこの手の話を授業で聞いたには聞いたんだけど、2年近く前の話だし、
当時はあまり興味がなかったというか、問題意識がなかったというか・・・
今思うとすごいもったいない事なんだけど。

たしか海洋生態系で高次捕食者(マグロなどの大型魚)を乱獲してしまうと、
イカやクラゲなどの一年でライフサイクルを終える動物が増えてくる。
トップダウンコントロールが効かなくなるからだったと思う。
生態系が単純化してしまうのかな。

ベーリング海では昔からスケトウダラが盛んに漁獲されてて、
そのせいでスケトウダラの稚魚を食べるミツユビカモメが減って、スケトウダラ稚魚が食べるはずの動物プランクトンを食べるコウミスズメが増えたって研究もある。
数十年スパンでの話だけど。
真相はわからないけど、データを見る限りそう思えなくもないって感じだったなぁ。

要するにしっかり資源管理して、乱獲が起きないように適量を獲りましょうって事なんだけど、
そもそも資源量の推定がどうなんでしょ・・・??ってところもあるからねぇ。

難しい問題です。

長々と失礼!!

ムシ君☆ さんのコメント...

同じく呼ばれた気がするので書きます。

今回のマグロ騒動で特に気になるのが、規制の対象が「大西洋」クロマグロっていう、クロマグロの地域個体群=亜種限定という点。

規制がかかりそうな渦中のマグロは、実際は日本近海=太平洋で普通に見られる「太平洋」クロマグロとほとんど外見で区別できなくて、ましてや「切り身」にでもなったら絶対に見分けられんはず。

メジロは飼っていいけどダイトウメジロは駄目!みたいな感じかな?違うか…

今回は、2種の分布が被らんかったから、産地さえ判明すれば、そのマグロが合法的に漁獲されたマグロなのか、非合法なタイセイヨウマグロなのかわかるけど、今後規制の対象が広がったらどうなるんだろうか?

規制種とそうでない類似種を誰が区別できるの???

…なんて考えると、「社会の役に立たない」って言われ続けてきた分類学が貢献できる部分もあるのかと思うこの頃です。

いずれにしても、大西洋の生態系の食物連鎖を考えると、俺もYuやKuraの意見に賛成です。

一般には知られていなくても、マグロ以外に美味しい魚はたくさんあるからね!

yu さんのコメント...

水産お二方ありがとう!

>kura

そうそう、高次捕食者がいなくなると
クラゲが増えるってのを先学期
調べたよ。日本近海のエチゼン
クラゲの大発生原因の一部も
大型魚類の乱獲が挙げられてる
らしいね。

スケトウダラの話面白いね!
なんか風が吹けば桶屋が儲かる
じゃないけど、色んな要因があるから
特定するのは難しくとも何かしらの
因果関係はあるはず。

こちらではラッコを捕りすぎた為に
ラッコのエサであるウニが大繁殖
して、ウニのエサであるケルプ(昆布
の仲間?)がバンクーバー近海では
なくなってしまった、と言われてる
よ。この場合のラッコのように生態系
のバランスを保ってる種をkeystone
speciesというらしい。

>ムシ

なんか最後のコメントがサカナ君
みたいだね(笑)

分類学と今回の件の繋がり、非常に
面白く読ませてもらいました。
確かにそうだよね。さすがのサカナ君でも食っただけで「これは大西洋です!」なんて言えないよね。

メジロとダイトウメジロの例は
割とぴったりなんじゃない?笑